Mr/Mme Loïc Nottet 和訳

 Loïc Nottet「Mr/Mme」の歌詞の対訳です。

 訳を日本語で読みたいがネットでは見つけられなかったので書いた。どこかに出ていたら教えてほしい。自動翻訳以外でお願いしたい。

歌詞の引用元は

Paroles Mr/Mme (Monsieur / Madame) par Loïc Nottet - Paroles.net (lyrics)

 

曲はこれ(ブリュッセル!)。これが公式MVということになっているけどCDの音源と微妙に違って生っぽいので正直聴きづらいところもある。映像なしでよければオーディオ版(Loïc Nottet - Mr/Mme (Audio) - YouTube)の方が安定したクリアな声で聴けておすすめ。

www.youtube.com

Bonsoir, monsieur, madame, aujourd’hui j’te dis tout
J’préfère t’parler en ‘tu’ car je n’aime pas le ‘vous’
Je trouve que ça vieillit et moi j’veux rester p’tit
Un gamin pour la vie sans mouchoirs, ni cris
こんばんはムッシュにマダム きょうは全てを話そう
‘vous‘は好きではないので’tu’で話すのがいい
‘vous’は古くさい感じだ 僕は子どものままでいたい
死ぬまで子どもでいたいんだ ティッシュは要らないし泣かないけど*1

 

Alors, vas-y, j’te dis tout sur le drame que j’vis
Au quotidien, en enfer, voilà où j’suis
J’voudrais m’en aller, m’évader loin de tout
De ce monde de fous et partir je n’sais où
では僕の生きている悲劇の全てを話そう
僕がいるのはいわば恒常的な地獄だよ
あらゆるものから遠く離れて消え去ってしまいたい
この狂った世界を置いてどこか知らない遠くへ

 

Ce monde m’étrangle, m’écrase, me brûle
Me détruit, m’empêche de vivre dans ma bulle
Alors, j’voudrais partir loin de tout, juste m’enfuir
Laisse-moi courir loin, laissons ce monde à bannir
この世は息が詰まる、僕は潰される、火傷する、
壊される、殻に籠もったままで生きさせてはもらえない
だから全てから離れたい、ただ逃げたいんだよ
遠くへ走らせてよ、世界が追放するままに*2

 

Si Dieu dit que l’suicide est un péché alors
Qu’il dise comment je pars, sans lui faire de tort
Qu’il me transforme en c’que les médecins appellent ‘fou’
Et peut-être qu’ainsi j’y verrai dans le flou
自殺は罪であると神が言うなら
迷惑をかけず消える方法を教えてくれ
いっそ医者がキチガイって呼ぶやつに僕を変えてくれ
そうすれば霧の中で目が見えるようになるかも

 

Alors, cher monsieur D, aide-moi, aime-moi
Moi j’n’y arrive pas dans ce monde que je vois
Dans ce monde de luttes où l’Homme n’est qu’une brute
Où l’amour n’est plus rien que querelles et disputes
だからムッシュD*3 、助けてよ、愛してよ
こんな世界ではどうしたって僕は無理だ*4 
ヒトがただの獣でしかない 争いばかりのこんな世界では
愛がくだらない口論に成り下がるこんな世界では

 

J’voudrais m’écrire un monde, une planète rien qu’à moi
Une planète sur laquelle je me sentirais moi
Un renouveau sans chaîne, dépourvu de haine
Une planète sur laquelle tu me donnerais des ailes
自分だけの世界、自分だけの星を描きたい
僕が僕自身でいられる星を
足かせのない、憎しみのない再生を
その星では君が翼をくれるんだ

 

Un nouvel univers où les larmes, les peines
Ne seraient qu’un mythe qu’une putain de légende urbaine
Alors, laisse-moi partir, dis- moi comment m’enfuir
Assez d’questions posées, laisse-moi, j’veux tout quitter
全く新しい宇宙 そこでは涙も痛みも
ただの神話 いまいましい*5都市伝説に過ぎない
だから行かせてくれ 逃げ方を教えて
議論は出尽くしただろ いいかげん離してくれ

 

La seule chose que j’aime en ta création : l’Homme
C’est qu’il peut rêver chaque nuit comme les mômes
Qu’on soit vieux, jeune, vilain, gentil, ou encore moche
On a le droit d’rêver sans même rien dans les poches
君が創造した「人間」というやつの唯一好きなところは
毎夜子どもみたいに夢を見られるということ
老いても若くても悪人でも優しい人でも、醜悪を極めていても
ポケットに何一つ入っていなくたって誰にでも夢を見る権利があること

 

Mendiant, j’implore le soir, je mendie de l’éspoir
Mais la nuit est radine madame garde sa morphine
Parce que j’ai pas payé, ou du moins, pas assez
Né d’parents sans fortune elle me refuse la lune
どうかお願いします、夜に祈ります、希望をください
だけど夜というのはケチで モルヒネをよこしてくれない*6 
僕は対価を払っていないから、払っていても十分ではないから
貧しい親のもとに生まれたから月は僕を拒む*7 

 

Puisque certes, dans ce monde on ne peut vivre sans ces nombres
Que tes enfants ont tranformé en méchants monstres
Chaque mois tu en gagnes, chaque jour tu en perds
L’addition est sévère, j’rends la note, j’quitte l’enfer
この世では数なしには生きられないようになっている*8
子どもたち*9の手によって邪悪なモンスターと化した数字
毎月数を稼いで、毎日数を失って*10
厳密な会計*11 もうたくさんだ*12 僕は地獄を出る

 

C’est vrai, j’m’avoue p’têtre vaincu, j’l’avoue, j’l’assume
La vie m’bouffe avec un sale goût d’amertume
Alors, entends-moi hurler, gerber toutes mes tripes
Dans ce son qui conte la vie d’un con pessimiste
そうだね、僕の負けかもしれない、白状しよう、誓ってもいい
人生は僕を食い散らかしている 苦くて最低の味だ
だから僕が叫ぶのを、内臓を全部吐き出すのを聞けよ
とある愚かなペシミストの生、その鳴らす音を聞け*13

 

Je me sens seul, putain! 
Personne me tient la main
Personne avec qui partager cette gloire, putain
J’marche seul sur un chemin qui semble sans lendemain
J’accélère mais personne ne m’attend à la fin
孤独なんだよクソが!
誰も僕の手を取らない
この栄光を誰とも分かち合えないんだクソッタレが*14 
明日の見えそうにないこの道を僕は一人で歩く
歩みを速くしても誰もゴールで待っていてはくれない

 

Alors chaque soir, je bois, je me tronche la gueule
Pour oublier qu’au fond le succès, ça rend seul
Peu d’amis, peu de vie, j’suis enfermé sous vide
Plein d’ennemis, plus d’sortie, Dieu, j’ai besoin d’un guide
だから毎晩正体をなくすまで酒に溺れて*15 
忘れようとする 成功はけっきょく孤独をもたらすということを
友人はなく、生きる力もなく、真空に閉じ込められて
敵ばかりでもう出口もない 神の導きが必要だ

 

Certains bouffons diront que j’abuse, j’éxagère
Mais j’les emmerde ces cons car j’suis jeune et j’galère
Dans ma tête c’est le bordel, qui a éteint la lumière ?
Maman, j’n’y vois plus clair j’ai besoin qu’on m’éclaire
僕のことをいかれてるとか大げさだとか言う人もいるだろう
けどそんなやつらはどうでもいいんだ 僕は若いし 苦しいのだから*16
頭の中が混沌としている 明かりを消したのは誰だよ
もう何もよく見えないよ母さん 誰か明かりをつけて

 

D’abord c’est le bonheur quand tu donnes à ton coeur
À bouffer un amour qui calme tes douleurs
Tu oublies ton malheur mais au fond c’n’est qu’un leurre
Dans cette génération d’cons, remplie de menteurs
初めは幸せだろうね 夢中になって心を砕いて
痛みを和らげてくれる愛をむさぼることはね
そうすれば苦しみを忘れられるけれど本当はただのまやかしだ
うそつきのはびこる愚かなこの時代*17では

 

Une fois le coeur brisé, pas besoin d’ l’appeler
La solitude débarque, elle vient vite te trouver
Elle n’attend pas qu’tu ouvres, nan !
Elle entre sans frapper
Tes coups d’blues sont pour elle un quatre heures à bouffer
一度心が傷ついたら、わざわざ呼ぶまでもなく
孤独はすぐに君を見つけて飛ぶようにやってくる
開けるのを待ってなんてくれるもんか!
ノックもなしに入ってくるんだ
苦しめば苦しむほどおやつにされるだけ*18 

 

Alors toi, qui es-tu ?
Au fond, le sais-tu ?
Car moi je n’sais plus qui je suis, j’suis perdu
Mon ambition est grande, dure à satisfaire
Mon bonheur a le goût d’une saveur amère
さて、君は誰?
つまり、自分が何者かわかる?
というのも僕はもう自分がなんなのかわからなくなっているから
僕の野望は壮大でたやすく満たされることはなく
僕の望む幸せは苦い味がする

 

Alors, monsieur, madame, j’l’avoue, j’suis malheureux
Et pourtant je vis de mon rêve de morveux
Mais c’est plus fort que moi, il me manque encore ça
Ça et ça, là-bas, toujours plus, j’suis comme ça !
だからムッシュにマダム、認めよう、僕は不幸だと
けれど僕は自分の幼い夢によって生かされてもいる
でも抑えられない、まだずっと足りない
あれもこれも、あちら*19 でも、常にもっと これが僕なんだ!

 

Alors j’éspère qu’un jour je pourrai faire l’amour
À une personne sincère qui n’me jouera pas d’tours
J’en ai vraiment assez de donner sans retours
J’suis saoulé d’m’aimer, moi, sans l’âme-soeur c’est lourd
だからいつの日か人を愛せるといい
僕をもてあそんだりしない真実の人*20を愛せるといい
見返りもなしに与えることにはもう本当にうんざりだ
自分を愛してやるのに疲れた 魂の片割れがいないと抱えきれない

 

Mais sachez tout de même que sur scène, grâce à vous
J’ai l’impression d’être loin de ce monde de fou
Car j’écris quand j’me plante
Et je ris quand je danse
Et je vis quand je chante
Et pour tout ça, j’te dis : Merci.
しかし知っていてほしい ある意味あなたがた*21 のおかげで僕は
舞台の上ではこの狂った世界と距離を保てる気がすること
なぜなら僕は行き詰まってはものを書き
踊るときには笑顔になり
歌えば生きていると感じるから
その全部について君に ありがとう

 わからないところが多すぎて言い訳の注釈をたくさん付けてしまった。うのみにしないでほしい。気に入らない部分もあるので考えが変わったり違うことを思いついたりしたら修正したい。誰も読まないと思うけどもし誤りや疑問点やご意見などあれば教えてください。

 現時点で解決していないのは①sans mouchoir ni cris、②laissons ce monde à bannir、③la nuit est radine madame garde sa morphine、④elle me refuse la lune、⑤me tronche la gueule で、(めっちゃあるな)慣用句的な何かを知らなくて調べきれずに見逃している可能性。調べる手段が辞書とネット検索しかないので……。作品(詩)なのだから訳せない方がふつうという説もある。

 去年の夏にSpotifyで雑に流していた仏語の曲の寄せ集めのようなプレイリストに入っていて初めて聴いた。最初女の人かと思ったら男の人だった。少年と青年のはざまみたいな声が胸に刺さる。何をそんなに懊悩しているんだろうというほどの嘆きかた(消えてなくなりたいと繰り返す前半。m'en aller、m'évader、partir、courir loin、m'enfuir、tout quitter、全部同じこと言ってる)の一方、絶望しきってしにたいのではなく「野望が大きすぎて満たされない」「ステージの上では生きていると感じる」という方向に行くのが不思議なバランスでイイネって思います。「神」と「君」が混ざったような二人称tu(あなた)が最後にvous(あなたがた)になるの好き、それも冒頭でわざわざ「vousは好きくないからtuで話すよ」と言っていたのに敢えてのvous、目の前の観客と同じ地に足のついた目線まで降りてきたというか「目が合った」みたいな感じがしないか。というのは深読みで、脚韻を踏むためにvousになってるだけといったらそれもそう。

 歌っている人はベルギー・シャルルロワ生まれのシンガーソングライターでダンサーらしい。2015年のユーロビジョンにベルギー代表で出ていたらしい。踊ってるMVもかっこいい。Mr/Mmeは2020年の曲だそうで、流行っていたならその当時に知りたかった気持ちもあるがそこはわたしなのでまあ、というかわたしにしては早い方だろう。気になる同時代の歌手ができてよかったね。最近もベルギーでプラチナディスクになったりしていたみたいだ。

 

 
 
 
 
 
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Merci d’écouter Mr/Mme! Merci de l’avoir écouté jusqu’au bout malgré ses longues minutes ! Merci d’avoir compris le sens de chaque mot ! Cette chanson, ça fait déjà bien longtemps qu’elle ne m’appartient plus! Mr/mme est autant à vous qu’à moi et cette certification en est la preuve encore aujourd’hui ! 

Mr/Mmeを聴いてくれてありがとう。長い曲なのに最後まで聴いてくれてありがとう。一つ一つの言葉の意味を理解してくれてありがとう。もうずっと前からこの曲は私だけのものではなくなり、私の曲であるのと同じくらい皆さんの曲になっています。また一つ、今日のこのプラチナディスクがその証明となりました。(2023年11月、disque de platine受賞時のインスタグラムから)

 歌詞の意味をわかってくれてありがとう、というここを読んでイヤわたしはわかってないぞまずい、訳をいったん完成させねばと思ったのだった。(一人称私でよかったかな……)

他の曲も貼っておく。

↓ カッコつけてるのとたまにニコッとするのがかわいい。全部通しで踊っててすごい

www.youtube.com

↓ 比較的最近の。オシャレ。鼓動みたいなベース良い

www.youtube.com

↓ 映像はないけど今気に入っているのはこれ。暗く官能的であやしくて素敵www.youtube.com

*1:sans mouchoirs ni cris、さっそくわからないので文字通り。子どものようにぐずぐずティッシュを使うことも大声で泣くようなこともなくなったが、心は幼い子どもでいたいということか?

*2:bannirの目的語がわからない。世界が(自分を)追放するに任せよう、の意と取ったが逆(こんな世界は自分たちが追放しよう)もあるかもしれない?

*3:D=Dieu(神)

*4:y arriverの中身がはっきりしないので雰囲気訳。頭が悪そうな口調になってしまった。直訳だと「僕の見ているこの世界では僕はそこに至れない」

*5:putain deを辞書通りに「いまいましい」にしたが、「ウザい」「クソみたいな」「しょうもない」など品位低めの方がしっくりきそう

*6:「眠れない」ということだと思う。眠って夢を見られることが人として唯一の救いなのにそれが得られないと。madameはla nuitだと思うが文法がよくわからない

*7:ここもelle=la lune だと思う。月に拒まれる=眠れない、安寧な夜がない(たぶん)

*8:puisque certesは後ろのchaque jour tu en perdsにまでかかるんじゃないかと思っている(訳せてない)

*9:このtes enfantsは神が創造した人間の子ども、子孫、人類みたいな意味だと思う

*10:en はde nombres(数)だが前の段からの流れもあってde l'argent(金銭)を連想させる

*11:l'additionは「合計」や「足し算」でもいい。「毎月稼いだり失ったりする数」をお金と捉えて「会計」にしたが、友達の数やテストの成績や再生数や「人間としての得点」とかかもしれない、そういうものをきっちり数えて値札をつけるかのように人の価値を決める世界を嫌だと歌っている……のだろうと思いました

*12:rendre la noteは伝票を突っ返すイメージ

*13:直訳は「愚かなペシミストの人生を物語るこの音の中に、僕が吠えるのを、全ての内臓を吐き出すのを聞け」。食いちぎられる生々しいイメージ

*14:putainの訳が全部「クソ」になってしまう。悪態のレパートリーがなくて限界を感じる

*15:se troncher la gueuleがわからなくてググって出てきたページhttps://fr.hinative.com/questions/18020966 でこの曲が話題になっていたので参考にした。妥当性が判断できないが少なくとも違和感はないと思う。rire très fort の俗語的表現だという説も同じページにあって、そちらを採用すると「毎晩酒に溺れて大声で笑って」とかになるかなあ

*16:galérerかなり訳しづらい。辞書では「苦労する、割に合わない仕事をする」(ロワイヤル仏和中辞典2版)。このへんhttps://fr.wiktionary.org/w/index.php?curid=372720も参照。ユーチューブの英語字幕ではI'm strugglingだった

*17:世代の方がいいかも……

*18:直訳は「君の憂鬱(coups de blues)は彼女(la solitude、孤独)にとって4時のおやつのようなもの」

*19: là-basはあの世とか地獄とかの方がいいかもしれない。この部分自体がよくわからない

*20:une personne sincèreは「誠実な人」の方が自然ですが気に入らないのでずらしています

*21:「vous は好きじゃないからtuで話す」って言ってたのに急にvousにしてきたな。まあ複数人が相手だからだと思うが、ここまで神とかの概念的なものに向かって話していたところから、現実に舞台の前にいる観客たちに近い視点まで降りてきたようなイメージだと思った。そのすぐ後にまたje te dis だし何この使い分け……。大勢の観客に向けてはvous、観客の中の一人一人に語りかけるのはtuという感じか

物語の物語

 ぜんぜん文章が書けなくて作家でもないのにパソコンの前で固まる日々を過ごしている。
 義務から書いていた論文もレポートも終わってわたしを縛るものはもはやなく、思うままに書きものをしたり今まで観られなかった映画やアニメに浸ったり長編 RPG を遊んだりできる(きみの望む時間の使い方はその程度なのか?)つかのまの時間を得た。そのうえ休みで日本を離れて遠い田舎の寒い国で室内にこもるという、夢のような環境にある。のだが。パソコンを手帳をひらいてはため息ばかり。何がしたいのだろう。かくことは好きだった。時間ができたらものを書くのだとずっと思っていたはずなのに、いったい何をかきたかったのだろうね。

 日常を脚色して物語みたいな日記を書いてみたい気持ちがある。気持ちだけ。

 「物語」の物語に弱い。現実や、日常とは位相を異にするフィクションの世界を、いくつもいくつも抱えていて、日常と同時進行で夢を生きているような、そういうひとにあこがれる。何回同じことを言うんだという感じだが。フィクションがひとを救うのはほんとうになぜなのだろう。ときには虚構のほうが現実よりもリアルに思えたり。かといって現実をないがしろにするわけでもなかったり。不思議ね。
 フィクションがなければひとは生きられないのじゃないかとやっぱり思う。現実を粘土のようにまるめて変形させてあざやかな色をぬり重ねて、うたって踊って体当たりで常に常に語りつづけることでしかわたしたちは、自分の生きている世界に意味を与えられない。けれども自在に空を飛ぶのは難しい。ビッグフィッシュの主人公のお父さんのようになれないわたしは、パソコンの前で固まりながら地道にことばを捻りだしてゆくしかないのだろうな。
 詩人ノザー・ウィンズローがすてき。スティーヴ・ブシェミさんのあの顔が好きだ(ウィキペディアの彼の項に「一度見たら忘れられないアクの強い風貌」とかかいてあって笑っちゃった)。詩を書かない詩人なんて似合いすぎ。彼が仕掛けた銀行強盗みたいにやけくそになりたいわたしも。

奪い取った場所で光を浴びた

 最近というか半年くらい前から3DS版のテイルズオブジアビスにはまっていた。

 テイルズオブシリーズは好きなアーティストが主題歌を担当していたり周りのひとが話題にしていたりで昔から興味はあったものの、一度もプレイしたことがなかった。それをやっと、今年の春に声優の鈴木千尋さんにはまったことをきっかけに、彼が主役を演じているアビスをやってみたらものすごく面白くて、いろんなことそっちのけで夢中になってしまった。ほかにやること山ほどあるのに。
 フェイスチャットと戦闘中のパーティメンバーの掛け合いが楽しくて大好き。冒険の道すがら仲間同士が普通におしゃべりする RPG たのしい。キャラクターの背景や出自が複雑でしつこいくらいだが(「このひとの正体は実はこうだった!」みたいな衝撃の事実ばっかり、パーティメンバー全員がそんな感じ)、そのおかげでそれぞれのキャラクターの世界が重みを持って迫ってきて、敵味方関係なく感情移入してしまう。ナタリアのところで大泣きしちゃった。そのひとをそのひとたらしめるのは生まれではなくそのひと自身の行いや心の持ちようなのだみたいなところ。ナタリア気高くて大好き。
 中二っぽい世界観もきらいじゃないし、ルークにいらいらもどかしくなりながら楽しくプレイできる(いや、すきだよルーク)。宗教団体が与える預言の是非が軸に据えられたストーリーで、現実世界のあれこれにもなんとなく思いを馳せてみたり。これはたぶんパラレルで、よく似たものがわたしたちの世界にもあるような。ね。
 
 四月にソフトを買って初見は知識ゼロのままフリーハンドでクリアして、今は攻略サイトを見ながら細かいサブイベントの回収を含め隅々まで味わう二周目を遊んでる。ほんとうに何も調べずにノリで雑に一周めを終えてしまい、改めて攻略サイトを見て自分の見落としたものの多さに震え上がっている。見えていたものの密度がぜんぜん違う。そもそもクリアデータをセーブしたらもう戻れないなんて知らなかったよ。ポケモンみたいにレッドを倒してもその後の世界でまだまだ遊べるわけではないんだね。

 二周目はエルドラント(ラストダンジョン)に突入したところ。これ以降の展開は見るのがつらいものが多いから先に進みたくなくて、サブイベントをこなして油売ってる。クリアするのはいつになることやら。まーサブイベントを完遂してレベルが最高になるまではクリアしなくてもいいよね。いっそのことずっとクリアしなくてもいいよね。だって最後のシーン見たくない、悲しくて。
 それにしても、預言に頼りすぎて預言に支配された世界の是非を問うストーリーだというのに、それを遊ぶわたしが攻略サイトにべったり張りついてサイトの指示通りに操作しているというのはなかなか巧妙な皮肉だ。

 以下個人的なツボ等々

・戦闘が楽しい。格闘ゲームが元々苦手で、操作が下手なせいでルークが弱すぎて涙目だったが慣れたら楽しくなってきた。一周めは術技の使い方がロクにわからず、常に剣をひたすら振り回す通常攻撃だけの力技で突破した。今はFOF変化をそこそこ使いこなせるようになったし、ルークで秘奥義を発動できるようになったよ! 成長した!
・後衛の操作方法ほんとにわからん
・パーティメンバーなら詠唱と譜術はダントツで大佐がかっこいい。メテオスォーム!!!
・フェイスチャット見ているうちに、出演している声優さんがすごくすきになった。子安さんのすごさをこれで知る
・命がけで瘴気中和をする決心をしたときのうじうじルークをいさめたときのガイの怒鳴り声(ルークゥゥゥア!みたいな)が忘れられない
・イオン様が好き
・ルークが敵を倒すとすかさず「調子に乗らないで!」って言ってくるティアが好きくないのでずっと戦闘メンバーから外してた。ごめん
・ルーク以外の操作もできるようになりたくてとりあえず同じ剣士のガイにトライ。ルークよりも足が速くてアイテム盗みもできて慣れれば使いやすいことに気づいた。視覚的にきれいな技が多い。二つめの秘奥義を自力で発見できて感動。宝刀ガルディオスかっこいい
・ガイで闘技場上級個人戦をクリアできたので、ナタリア操作をできるようになりたくて練習中。ナタリアかわいい。漫遊冒険娘のコスチュームがとんでもなくかわいい。「ファランクス」の声好きすぎる
・主題歌のカルマってすごいネタバレソングだったんだな。発売当時はそんなにぴんときてなかったけどアビスのストーリーを知ってから聞くと歌詞の深さに感じいるものがある

 冬に PSP を貸してもらったら、ほかのテイルズでも遊びたいなー。

つくづく努力はしておくものだ

 そういえばこの夏の思い出のひとつは「カレカノ」を観たことだ。
 昔はぜんぜん興味がなかった。恋愛や青春ものが苦手で「彼氏彼女の事情」ていうタイトルが既に怖かったし、人間の裏表や見栄や自意識を扱っていると聞いてもうそれだけで重いと思って敬遠していた。そういう先入観があったからツタヤでDVD をレジに持っていくのですらひどく恐る恐るだったが、そうまでして観てみようと思ったのは主人公有馬の声をあてているのが鈴木千尋さんだったからだ(不純な動機)。鈴木さんを好きになったのは今年に入ってからのことだけど、以来、彼の過去の出演作を一つずつ観てゆくのがひそかな楽しみになっている。

 くだらない動機で観はじめたがほんとうに面白かった、ヒロイン雪野ちゃんは「表の顔は容姿端麗、才色兼備な優等生/裏の顔は他人に称賛される快感におぼれ、完璧な自分を演じる見栄王」という設定だが、この子がすごくパワフルでいやみなところがないのが気持ちいい。人前で自分を演じるとか本当の自分がどうとか、テーマとして深刻になりがちだし、わたしも設定だけ聞いたときはそういうドロドロを想像してびびっていたけれど、語りのテンポのおかげで気にならなかった。コメディのような軽快さと、そこにふっと混ざってくるシリアスさの塩梅が心地いい。

 というか表の顔を演じているとしても、それは別に本当かうそかの二択じゃないんだよな。ぜんぶ本当だしぜんぶ自分だ。グラデーションがある方が普通だ。
 仮面をはずして素をさらけ出すようになった雪野ちゃんに友だちができて、彼女たちが物語に参入してくるようになってからが、いっそう面白かった。成績優秀な雪野ちゃんだけじゃなくいろんな分野で活躍するいろんな子がいて、それぞれめざすものがあって努力していて。「ここでならわたしは輝ける」という何かをみんな持っていて、きちんとそれを自覚していて、それに気づいた雪野ちゃんの世界が、すっと広がるのがわかる。だれのこともないがしろにしない前向きな描写がすごくいい。雪野ちゃんは今までみえなかったものに対してまっすぐに感動できる子で、なんか人として「善」というか、「優等生」を演じることをやめてもやっぱり優等生だな。見ているこっちまで背筋が伸びそうで、いいなあと思った。お友だちのキャラクターもみんな魅力的ですきだ。
 それから、雪野ちゃんのせりふ「つくづく努力はしておくものだ」にぐっさり射抜かれたので、こころのなかの名言リストにそっと加えておいた。
 真面目さとか、まっすぐなものがわたしはすきなのだなあ、ということに気づいて自分で自分にびっくりしたし、上手に言えないけれど今この時期にこの作品に出会えてよかった。観るたびにいろんな楽しみかたができそう。次はだれかと一緒に観たいかも。

 当初の目的だったはずの鈴木千尋さんについてまったく語っていないが有馬くんはとってもかっこよかった。これがデビュー作だなんてちーちゃんはいい役もらったなあ。でも、かれかのはメインキャストの大部分がデビューしたての新人さんで、それがまたある種のみずみずしさや初々しさを作品に与えているのかもしれない。本谷有希子さんが声優としてしれっと出演していたりして驚く。
 なんか有馬くんがあまりにかっこよくて、第一話を観たその日の夜に夢にみた。夢の内容はほとんど覚えていなくて、でもなんか優等生風のやさしい男の子に親切にされる夢だった(?)。そして静かに満ちたりた不思議な気分で目が覚めて、根拠はないけどあれはぜったい有馬くんだった! と確信をもって思うのだった。

あなたを好きなわたしでいたい

 懐かしいお友だちがブログを移転して心機一転はじめたという知らせを聞いて、無性にうれしくなってしまった。知らせてくれたのがほんとにうれしい。高校生のころからブログのうえでお世話になっているお友だちで、お互いに状況がいろいろ変わった今になってもつながっていられること、わたしとつながっていようとしてくれたこと、がすごくうれしい。
 わたしには連絡無精という致命的な欠陥があって、もらった連絡にすぐ返事をするということがぜんぜんできない。普通のひとにできる普通のことが普通にできない、まあだらしないだけだが。社会生活を送るうえで無責任であることに疑いはないし、そのせいでひんしゅくをかったり幻滅されたりするのは当たり前で合わせる顔がない。かけてもらった声をことごとく無視してたくさんのひとを傷つけてきたことを知ってる。いつしかわたしはひとを避けて一人でいることを選び、切れてゆく縁を切れてゆくままに、ほったらかしで見送るようになっていた。
 もうだめかなと思っていた縁がふっと持ち直すようなタイミングが、それでもまれにある。何か月も何年も音沙汰のなかったひととびっくりするほど楽しく話せてしまったりする。お友だちの新しいブログにはそういう期待を淡く抱いてしまう。彼女の文章をまた読めるのがうれしい。そしてわたしもここでちゃんとわたしを発信したいな。ちゃんとやりなよほんとに。

 

 パトリス・ルコント監督『ぼくの大切なともだち』を観た。ほんとうに友だちってなんなのだろう。そもそも作ろうと思って「作る」ものではないし、むりをしてつなぎとめておくものでもないし、傍にいるかいないかとか、一緒に過ごす(過ごした)時間が長いとか短いとか、それ自体もほんとうは問題ではなく。いつどんなときでも、歳がいくつでも、だれかと友だちになることはできるはずなんだ。逆にいえばどんなに頻繁に連絡をとっていようと相手のためにいくらお金をかけようと、なにかがごっそり抜けていることもある。
 主人公はそこのところがぜんぜんわかっていなくて次々と痛々しい行動をとってしまうのだけど、その滑稽さは万人に通じるものがあると思う。「自分には友だちがいる」と思っているひとこそ友だちを甘くみてる。大のおとなが、必死でがんばって、迷って失敗して恥ずかしい思いをして、それでも結局よくわからない、うまくいかないのが友だちなのだ。「ひとと仲良くなるための三つの魔法」(sympathique, souriant, sincèreで 3S ! )なんてはたからみてるとミクシィのコラムみたいで笑ってしまうが、それは実際にわたしたちが、日常的に演じている喜劇でもあるよね。それから、友だちになることよりも友だちでいつづけることのほうが、ずっと繊細で難しいよね。

潜水服は蝶の夢を見る

 観た。すてきだった。主人公の独白や彼の書きとらせる文章に本読み編集長らしい人物像がうかがえて、それが好みのど真ん中だった。こういういかにも教養あるひとみたいな人物設定に惹かれる。メルヘンチックに世界じゅうを飛び回って異国情緒あふれる民族の風習や信仰をうつしだしたり、日常の病室風景に突然ナポレオンのお妃さまを登場させたり、じぶんの置かれた状況にそっくりな男の出てくる章を『モンテ・クリスト伯』からそらで選んでみせたり。いつも夢のなかにに片足をつっこんでいるような、現実とは位相の異なる詩的な世界を、常にいくつも抱えているようなそういうひとにあこがれるし、かなわないし、すきだと感じる。ちょっとだけ『落下の王国』っぽいなと思った。
 想像力と記憶って作中でも言っているけれどほんとうにすべての源泉になりうるよなあと思う。全身が麻痺して絶望的な状況にあって、ペンも資料も持たずまばたきだけで一冊の本を書きあげてしまうのは、何もないところから生まれたものでは決してなくて。自由に飛躍する想像力と、今までにじぶんが生きてきた記憶、そのどちらが欠けても面白くないのだろう。作りだされるものが命を持つのは作りだす側がそれを生きているからかもしれない。
 そういえばわたしのまわりでも、すてきな文章を書くひとはみんな記憶力がいい。何年も前のことや、小さい頃に読んだ本のこと、見落としてしまいそうな風景の隅々まで、びっくりするほど細かく覚えている話を聞くたび驚く。記憶の一つ一つがそのひとのなかでいつまでも生きてそのひとをつくっている。そのひとが創りだすものにもまた、一つ一つの記憶が生きているんだと思う。そうやってつくられたものにはすごみがある。わたしはなんでも平気ですぐに忘れてしまうから、せめて感じるそばから記録してゆけるようになりたい、ほんとうは。

 アルファベットを読みあげて代筆する女のひとが文字の並びからだんだん単語を予測できるようになってゆくところ好き。予測をあてられるのは考えていることが同じだから。単語あてゲームの感覚でわたしも一緒になって考えてたけど、M-O-U-R, mourir, と即座にあてる場面は切なかったし、そのすぐあとにM-E-R-, ときて(観ているわたしもこの時点でメルシーだとわかった)、そのあと C までが早口になる彼女がすごくよかった。そして案の定 C のところでまばたきがあって、メルシーだとわかってぱっと笑顔になる彼女に泣いた(その直後に主人公は内心で「女なんて単純だ」みたいなことを言う。怖い)。
 P-L-E だけで Ne pleure pas を察したのに感動した。気の遠くなりそうなコミュニケーションもつづけているうちになんとなく「わかる」みたいなときが出てくる。思い込みや錯覚かもしれなくても、相手を思って手を伸ばしつづけることが、報われるみたいな瞬間がまれにあって心を動かされる。ひととひととが通じ合うってすごい奇跡の積み重ねなんだな。

 教会に連れて行かれてルルドを回想するエピソードの気持ち悪さがすごかったけどどういうことなのだろうな。また観たいです。

テイク・ディス・ワルツ

 自分の居場所を一つに定めて穏やかに暮らしたい気持ちと、新しいものを求めて流され続けたい気持ちが、わたしのなかにも混在してる。どちらを選んでも満たされはしないのだろうと、わかっているけど、しあわせになりたいの。
 「どうしてかけがえのないものが、色褪せて見えるの?」というコピーに惹かれて観に行ってきた。ひとところにとどまる幸せとはなんなのだろうってここのところずっと考えている。かわいい服を着ておしゃれな家に住んで、自由な仕事をして、やさしい夫に愛されて……ていうマーゴの結婚生活は幸福そのもののようにも思えるけれど、どうしたってどこか埋められない部分があるみたいでこわい。なんかつまりそれは孤独なのだろうと思った。何を手に入れてもだれに愛されても、どこまでいってもひとは根本的に究極的に孤独で、それはもうどうにもならないことなのだ。ずーん。
 満たされているはずの空間でふっと襲いくる不安みたいなものがあって、それがくるともう苦しくて、切なくて、わけもなく焦って何も手につかなくなる。そういう微妙だけど致命的な動揺の描き方が息がつまるほどきれいだった。どこを切り取っても美しい絵で、でもそのビビッドな色合いや季節感がときにずっしり重苦しく。生ぬるい風や汗をかいた肌のしめった熱まで伝わってきそうな気持ち悪さにみとれた。

 

 映画みてたら食べたくなったので家に帰ってからチキンのトマト煮を作った。
 乾燥して硬くなったバゲットをスープに浸したら驚くほどやわらかくなって美味しく食べられたことにしんみりした。同じままではいられないし、色褪せてゆくのは止められないけれど。それでも、パンをスープに浸すようなやり方をめざせばいいのだと思った。元と同じじゃなくて当たり前だし、それでいいのだ、きっと。
 それからふと思ったが、物語の(とくに映画の)ラストって、紆余曲折の末にどこか知らないところへ踏み出してゆくエンドより、紆余曲折の末にもといた場所へ戻ってくるエンドのほうがすきかもしれない。単純に二分できるものでもないが「それでもわたしはここで生きていくのだ」みたいなのがすきだな、そっちの方に救いを感じる。

 マーゴの洋服が超~~かわいかった。赤白ストライプのTシャツ、花柄のエプロン、水着、デニムのショートパンツ、マドラスチェックのタンクトップ、ギンガムチェックのワンピース………ウワー。わたしも同じものが欲しい、全部欲しいよ。でも今の時期になってビタミンカラーの夏物なんて売ってないし、現実的でないので、マーゴがしていたようなターコイズブルーのペディキュアを買って物欲をごまかした(でもそれもぜんぜん理想の色じゃなくて納得してない。2012年日本のネイルカラー市場で見つからない色があるとは)。

今日からでも、人生のばらの花を摘みなさい

 Cueillez dès aujourd'hui les roses de la vie. ――Pierre de Ronsard


 だまされたと思って、明日を待たず、今日からでもいい、人生のばらの花を摘みなさい。
 失われてゆくものを書きたいと思う。未完成なままのことばをただ並べたい。若さや、愛するひとや、自由をいつか失うなら、書く幸せだけはさいごまでわたしのものであってほしい。失いたくないから書き綴りたい。だまされたと思って。今日からでも。手遅れでも。

ここはあなたからほどとおいくに

 寂しいと言いたいけど言わないのは一人でいることを愛してこその二人だと思うからだよ。

 超・絶・鬱! な状態をなんとか抜け出したつもり、会いたくて一人でウワーッてなってたけどもうやめたやめた。言ってもどうにもならんものはならん。絶望と孤独に加えて関係ないひとへの羨ましさまでもが交錯して暗いねちねちした文章を深夜までかけてずらっずら書いてたけどもう全部消したよ、そもそもそーいう柄じゃなかったことに気づいたよ、それに BONNIE PINK さんの「Quiet Life」にわたしの言いたいことが全部かいてあってひどく拍子抜けしたのだ。わたしが書かなくたって他のひとがもっと上手に書いてるじゃん。ね。その程度ですよわたしなんて。
 一人でいることをちゃんと楽しめるようになりたいんだよ、大好きだった本を漫画を音楽を綺麗な靴や化粧品を、紅茶の湯気を眺める時間を、だれにも邪魔されずに文章を書く喜びを、思い出せ。「気を紛らすため」とかじゃなくて正攻法でやるんだよ。四六時中一緒にいられるわけではないことを考えれば、今夜離れて眠るその程度のこと、贅沢でかわいい不幸でしょう。一人でいることが好きだったわたしならできるでしょうが。
 それでもどうしても寂しいときは、白い熊を抱いて眠りへと逃げるんだ。

 *

 ここはあなたからとても遠い国
 決してあなたの顔に触れることはできない
 ここは幸せからほど遠い国
 私もそうよ どこへ行ったって
 きれいな景色 入れたてのコーヒー
 (Quiet Life / BONNIE PINK 対訳より)

「あなたから遠い国」だからイコール暗くて寂しい、ではなくて、「きれいな景色 入れたてのコーヒー」というのがいい。会いたい人が不在でも世界は変わらずにやさしい、そのことがかえってひどく寂しい。

京都に行ったらしたいこと

 京都に戻ったら行きたいところを思いつく限り。

・カラオケ
・ミック
・くらり食房
・weekenders
・茂庵
・喫茶ソワレ
ほんやら洞
・BAR探偵
・フランソア喫茶室
・ポストコイタス
・妖怪堂
・ゴスペル
六曜
猫町カフェ
・とうふカフェ藤野
・オ・グルニエ・ドール

 誰と行くんだってかんじなんだが。
 だれか一緒に行きませんか。

 明日から京都に行きます土曜日までの3泊4日。母親同行のため残念ながら個人的に遊べはしないのですが、もしどこかで見かけたらぜひお声をおかけくださいね。マンションの契約とか保険とかいろいろやってくる予定なので百万遍周辺にさりげなく出没すると思います。
 しかし、いろいろとは書いたものの家の契約以外にやることがまったく決まっていないので、時間をもてあましそうで心配です。もはやどこを観光していいのかわかりません。京都に住んでたわりにぜんぜん行ったことのない場所のほうが多いので、どこに行ってもそれなりに新鮮であるとは思うのですが、しかし母親と一緒に今更どこへゆけばいいのでしょう。

 カラオケに行きたい。最近乙女化計画が進行中と噂の彼女に会いたい。それが後期まで我慢だなんて!

 *

 アトピー性皮膚炎の治療のためお化粧禁止月間。フランスにいるあいだに傷みに傷んだ肌をどうにかして回復させねばならぬ。わたしの顔ほんとにやばい。自分のなかでいろんなものが枯れてゆく気がしてならない。後期が始まるまでに治りますように。

 *

 この日記を書いてたらお友達からメールが来て、ミックが閉店したことを知った。さっき行きたいとこリストに「ミック」って打ったばっかりなのに。悲しすぎて立ち直れない。もういちど昭和のあんこミルク食べたかったよ……。