Mr/Mme Loïc Nottet 和訳

 Loïc Nottet「Mr/Mme」の歌詞の対訳です。

 訳を日本語で読みたいがネットでは見つけられなかったので書いた。どこかに出ていたら教えてほしい。自動翻訳以外でお願いしたい。

歌詞の引用元は

Paroles Mr/Mme (Monsieur / Madame) par Loïc Nottet - Paroles.net (lyrics)

 

曲はこれ(ブリュッセル!)。これが公式MVということになっているけどCDの音源と微妙に違って生っぽいので正直聴きづらいところもある。映像なしでよければオーディオ版(Loïc Nottet - Mr/Mme (Audio) - YouTube)の方が安定したクリアな声で聴けておすすめ。

www.youtube.com

Bonsoir, monsieur, madame, aujourd’hui j’te dis tout
J’préfère t’parler en ‘tu’ car je n’aime pas le ‘vous’
Je trouve que ça vieillit et moi j’veux rester p’tit
Un gamin pour la vie sans mouchoirs, ni cris
こんばんはムッシュにマダム きょうは全てを話そう
‘vous‘は好きではないので’tu’で話すのがいい
‘vous’は古くさい感じだ 僕は子どものままでいたい
死ぬまで子どもでいたいんだ ティッシュは要らないし泣かないけど*1

 

Alors, vas-y, j’te dis tout sur le drame que j’vis
Au quotidien, en enfer, voilà où j’suis
J’voudrais m’en aller, m’évader loin de tout
De ce monde de fous et partir je n’sais où
では僕の生きている悲劇の全てを話そう
僕がいるのはいわば恒常的な地獄だよ
あらゆるものから遠く離れて消え去ってしまいたい
この狂った世界を置いてどこか知らない遠くへ

 

Ce monde m’étrangle, m’écrase, me brûle
Me détruit, m’empêche de vivre dans ma bulle
Alors, j’voudrais partir loin de tout, juste m’enfuir
Laisse-moi courir loin, laissons ce monde à bannir
この世は息が詰まる、僕は潰される、火傷する、
壊される、殻に籠もったままで生きさせてはもらえない
だから全てから離れたい、ただ逃げたいんだよ
遠くへ走らせてよ、世界が追放するままに*2

 

Si Dieu dit que l’suicide est un péché alors
Qu’il dise comment je pars, sans lui faire de tort
Qu’il me transforme en c’que les médecins appellent ‘fou’
Et peut-être qu’ainsi j’y verrai dans le flou
自殺は罪であると神が言うなら
迷惑をかけず消える方法を教えてくれ
いっそ医者がキチガイって呼ぶやつに僕を変えてくれ
そうすれば霧の中で目が見えるようになるかも

 

Alors, cher monsieur D, aide-moi, aime-moi
Moi j’n’y arrive pas dans ce monde que je vois
Dans ce monde de luttes où l’Homme n’est qu’une brute
Où l’amour n’est plus rien que querelles et disputes
だからムッシュD*3 、助けてよ、愛してよ
こんな世界ではどうしたって僕は無理だ*4 
ヒトがただの獣でしかない 争いばかりのこんな世界では
愛がくだらない口論に成り下がるこんな世界では

 

J’voudrais m’écrire un monde, une planète rien qu’à moi
Une planète sur laquelle je me sentirais moi
Un renouveau sans chaîne, dépourvu de haine
Une planète sur laquelle tu me donnerais des ailes
自分だけの世界、自分だけの星を描きたい
僕が僕自身でいられる星を
足かせのない、憎しみのない再生を
その星では君が翼をくれるんだ

 

Un nouvel univers où les larmes, les peines
Ne seraient qu’un mythe qu’une putain de légende urbaine
Alors, laisse-moi partir, dis- moi comment m’enfuir
Assez d’questions posées, laisse-moi, j’veux tout quitter
全く新しい宇宙 そこでは涙も痛みも
ただの神話 いまいましい*5都市伝説に過ぎない
だから行かせてくれ 逃げ方を教えて
議論は出尽くしただろ いいかげん離してくれ

 

La seule chose que j’aime en ta création : l’Homme
C’est qu’il peut rêver chaque nuit comme les mômes
Qu’on soit vieux, jeune, vilain, gentil, ou encore moche
On a le droit d’rêver sans même rien dans les poches
君が創造した「人間」というやつの唯一好きなところは
毎夜子どもみたいに夢を見られるということ
老いても若くても悪人でも優しい人でも、醜悪を極めていても
ポケットに何一つ入っていなくたって誰にでも夢を見る権利があること

 

Mendiant, j’implore le soir, je mendie de l’éspoir
Mais la nuit est radine madame garde sa morphine
Parce que j’ai pas payé, ou du moins, pas assez
Né d’parents sans fortune elle me refuse la lune
どうかお願いします、夜に祈ります、希望をください
だけど夜というのはケチで モルヒネをよこしてくれない*6 
僕は対価を払っていないから、払っていても十分ではないから
貧しい親のもとに生まれたから月は僕を拒む*7 

 

Puisque certes, dans ce monde on ne peut vivre sans ces nombres
Que tes enfants ont tranformé en méchants monstres
Chaque mois tu en gagnes, chaque jour tu en perds
L’addition est sévère, j’rends la note, j’quitte l’enfer
この世では数なしには生きられないようになっている*8
子どもたち*9の手によって邪悪なモンスターと化した数字
毎月数を稼いで、毎日数を失って*10
厳密な会計*11 もうたくさんだ*12 僕は地獄を出る

 

C’est vrai, j’m’avoue p’têtre vaincu, j’l’avoue, j’l’assume
La vie m’bouffe avec un sale goût d’amertume
Alors, entends-moi hurler, gerber toutes mes tripes
Dans ce son qui conte la vie d’un con pessimiste
そうだね、僕の負けかもしれない、白状しよう、誓ってもいい
人生は僕を食い散らかしている 苦くて最低の味だ
だから僕が叫ぶのを、内臓を全部吐き出すのを聞けよ
とある愚かなペシミストの生、その鳴らす音を聞け*13

 

Je me sens seul, putain! 
Personne me tient la main
Personne avec qui partager cette gloire, putain
J’marche seul sur un chemin qui semble sans lendemain
J’accélère mais personne ne m’attend à la fin
孤独なんだよクソが!
誰も僕の手を取らない
この栄光を誰とも分かち合えないんだクソッタレが*14 
明日の見えそうにないこの道を僕は一人で歩く
歩みを速くしても誰もゴールで待っていてはくれない

 

Alors chaque soir, je bois, je me tronche la gueule
Pour oublier qu’au fond le succès, ça rend seul
Peu d’amis, peu de vie, j’suis enfermé sous vide
Plein d’ennemis, plus d’sortie, Dieu, j’ai besoin d’un guide
だから毎晩正体をなくすまで酒に溺れて*15 
忘れようとする 成功はけっきょく孤独をもたらすということを
友人はなく、生きる力もなく、真空に閉じ込められて
敵ばかりでもう出口もない 神の導きが必要だ

 

Certains bouffons diront que j’abuse, j’éxagère
Mais j’les emmerde ces cons car j’suis jeune et j’galère
Dans ma tête c’est le bordel, qui a éteint la lumière ?
Maman, j’n’y vois plus clair j’ai besoin qu’on m’éclaire
僕のことをいかれてるとか大げさだとか言う人もいるだろう
けどそんなやつらはどうでもいいんだ 僕は若いし 苦しいのだから*16
頭の中が混沌としている 明かりを消したのは誰だよ
もう何もよく見えないよ母さん 誰か明かりをつけて

 

D’abord c’est le bonheur quand tu donnes à ton coeur
À bouffer un amour qui calme tes douleurs
Tu oublies ton malheur mais au fond c’n’est qu’un leurre
Dans cette génération d’cons, remplie de menteurs
初めは幸せだろうね 夢中になって心を砕いて
痛みを和らげてくれる愛をむさぼることはね
そうすれば苦しみを忘れられるけれど本当はただのまやかしだ
うそつきのはびこる愚かなこの時代*17では

 

Une fois le coeur brisé, pas besoin d’ l’appeler
La solitude débarque, elle vient vite te trouver
Elle n’attend pas qu’tu ouvres, nan !
Elle entre sans frapper
Tes coups d’blues sont pour elle un quatre heures à bouffer
一度心が傷ついたら、わざわざ呼ぶまでもなく
孤独はすぐに君を見つけて飛ぶようにやってくる
開けるのを待ってなんてくれるもんか!
ノックもなしに入ってくるんだ
苦しめば苦しむほどおやつにされるだけ*18 

 

Alors toi, qui es-tu ?
Au fond, le sais-tu ?
Car moi je n’sais plus qui je suis, j’suis perdu
Mon ambition est grande, dure à satisfaire
Mon bonheur a le goût d’une saveur amère
さて、君は誰?
つまり、自分が何者かわかる?
というのも僕はもう自分がなんなのかわからなくなっているから
僕の野望は壮大でたやすく満たされることはなく
僕の望む幸せは苦い味がする

 

Alors, monsieur, madame, j’l’avoue, j’suis malheureux
Et pourtant je vis de mon rêve de morveux
Mais c’est plus fort que moi, il me manque encore ça
Ça et ça, là-bas, toujours plus, j’suis comme ça !
だからムッシュにマダム、認めよう、僕は不幸だと
けれど僕は自分の幼い夢によって生かされてもいる
でも抑えられない、まだずっと足りない
あれもこれも、あちら*19 でも、常にもっと これが僕なんだ!

 

Alors j’éspère qu’un jour je pourrai faire l’amour
À une personne sincère qui n’me jouera pas d’tours
J’en ai vraiment assez de donner sans retours
J’suis saoulé d’m’aimer, moi, sans l’âme-soeur c’est lourd
だからいつの日か人を愛せるといい
僕をもてあそんだりしない真実の人*20を愛せるといい
見返りもなしに与えることにはもう本当にうんざりだ
自分を愛してやるのに疲れた 魂の片割れがいないと抱えきれない

 

Mais sachez tout de même que sur scène, grâce à vous
J’ai l’impression d’être loin de ce monde de fou
Car j’écris quand j’me plante
Et je ris quand je danse
Et je vis quand je chante
Et pour tout ça, j’te dis : Merci.
しかし知っていてほしい ある意味あなたがた*21 のおかげで僕は
舞台の上ではこの狂った世界と距離を保てる気がすること
なぜなら僕は行き詰まってはものを書き
踊るときには笑顔になり
歌えば生きていると感じるから
その全部について君に ありがとう

 わからないところが多すぎて言い訳の注釈をたくさん付けてしまった。うのみにしないでほしい。気に入らない部分もあるので考えが変わったり違うことを思いついたりしたら修正したい。誰も読まないと思うけどもし誤りや疑問点やご意見などあれば教えてください。

 現時点で解決していないのは①sans mouchoir ni cris、②laissons ce monde à bannir、③la nuit est radine madame garde sa morphine、④elle me refuse la lune、⑤me tronche la gueule で、(めっちゃあるな)慣用句的な何かを知らなくて調べきれずに見逃している可能性。調べる手段が辞書とネット検索しかないので……。作品(詩)なのだから訳せない方がふつうという説もある。

 去年の夏にSpotifyで雑に流していた仏語の曲の寄せ集めのようなプレイリストに入っていて初めて聴いた。最初女の人かと思ったら男の人だった。少年と青年のはざまみたいな声が胸に刺さる。何をそんなに懊悩しているんだろうというほどの嘆きかた(消えてなくなりたいと繰り返す前半。m'en aller、m'évader、partir、courir loin、m'enfuir、tout quitter、全部同じこと言ってる)の一方、絶望しきってしにたいのではなく「野望が大きすぎて満たされない」「ステージの上では生きていると感じる」という方向に行くのが不思議なバランスでイイネって思います。「神」と「君」が混ざったような二人称tu(あなた)が最後にvous(あなたがた)になるの好き、それも冒頭でわざわざ「vousは好きくないからtuで話すよ」と言っていたのに敢えてのvous、目の前の観客と同じ地に足のついた目線まで降りてきたというか「目が合った」みたいな感じがしないか。というのは深読みで、脚韻を踏むためにvousになってるだけといったらそれもそう。

 歌っている人はベルギー・シャルルロワ生まれのシンガーソングライターでダンサーらしい。2015年のユーロビジョンにベルギー代表で出ていたらしい。踊ってるMVもかっこいい。Mr/Mmeは2020年の曲だそうで、流行っていたならその当時に知りたかった気持ちもあるがそこはわたしなのでまあ、というかわたしにしては早い方だろう。気になる同時代の歌手ができてよかったね。最近もベルギーでプラチナディスクになったりしていたみたいだ。

 

 
 
 
 
 
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Merci d’écouter Mr/Mme! Merci de l’avoir écouté jusqu’au bout malgré ses longues minutes ! Merci d’avoir compris le sens de chaque mot ! Cette chanson, ça fait déjà bien longtemps qu’elle ne m’appartient plus! Mr/mme est autant à vous qu’à moi et cette certification en est la preuve encore aujourd’hui ! 

Mr/Mmeを聴いてくれてありがとう。長い曲なのに最後まで聴いてくれてありがとう。一つ一つの言葉の意味を理解してくれてありがとう。もうずっと前からこの曲は私だけのものではなくなり、私の曲であるのと同じくらい皆さんの曲になっています。また一つ、今日のこのプラチナディスクがその証明となりました。(2023年11月、disque de platine受賞時のインスタグラムから)

 歌詞の意味をわかってくれてありがとう、というここを読んでイヤわたしはわかってないぞまずい、訳をいったん完成させねばと思ったのだった。(一人称私でよかったかな……)

他の曲も貼っておく。

↓ カッコつけてるのとたまにニコッとするのがかわいい。全部通しで踊っててすごい

www.youtube.com

↓ 比較的最近の。オシャレ。鼓動みたいなベース良い

www.youtube.com

↓ 映像はないけど今気に入っているのはこれ。暗く官能的であやしくて素敵www.youtube.com

*1:sans mouchoirs ni cris、さっそくわからないので文字通り。子どものようにぐずぐずティッシュを使うことも大声で泣くようなこともなくなったが、心は幼い子どもでいたいということか?

*2:bannirの目的語がわからない。世界が(自分を)追放するに任せよう、の意と取ったが逆(こんな世界は自分たちが追放しよう)もあるかもしれない?

*3:D=Dieu(神)

*4:y arriverの中身がはっきりしないので雰囲気訳。頭が悪そうな口調になってしまった。直訳だと「僕の見ているこの世界では僕はそこに至れない」

*5:putain deを辞書通りに「いまいましい」にしたが、「ウザい」「クソみたいな」「しょうもない」など品位低めの方がしっくりきそう

*6:「眠れない」ということだと思う。眠って夢を見られることが人として唯一の救いなのにそれが得られないと。madameはla nuitだと思うが文法がよくわからない

*7:ここもelle=la lune だと思う。月に拒まれる=眠れない、安寧な夜がない(たぶん)

*8:puisque certesは後ろのchaque jour tu en perdsにまでかかるんじゃないかと思っている(訳せてない)

*9:このtes enfantsは神が創造した人間の子ども、子孫、人類みたいな意味だと思う

*10:en はde nombres(数)だが前の段からの流れもあってde l'argent(金銭)を連想させる

*11:l'additionは「合計」や「足し算」でもいい。「毎月稼いだり失ったりする数」をお金と捉えて「会計」にしたが、友達の数やテストの成績や再生数や「人間としての得点」とかかもしれない、そういうものをきっちり数えて値札をつけるかのように人の価値を決める世界を嫌だと歌っている……のだろうと思いました

*12:rendre la noteは伝票を突っ返すイメージ

*13:直訳は「愚かなペシミストの人生を物語るこの音の中に、僕が吠えるのを、全ての内臓を吐き出すのを聞け」。食いちぎられる生々しいイメージ

*14:putainの訳が全部「クソ」になってしまう。悪態のレパートリーがなくて限界を感じる

*15:se troncher la gueuleがわからなくてググって出てきたページhttps://fr.hinative.com/questions/18020966 でこの曲が話題になっていたので参考にした。妥当性が判断できないが少なくとも違和感はないと思う。rire très fort の俗語的表現だという説も同じページにあって、そちらを採用すると「毎晩酒に溺れて大声で笑って」とかになるかなあ

*16:galérerかなり訳しづらい。辞書では「苦労する、割に合わない仕事をする」(ロワイヤル仏和中辞典2版)。このへんhttps://fr.wiktionary.org/w/index.php?curid=372720も参照。ユーチューブの英語字幕ではI'm strugglingだった

*17:世代の方がいいかも……

*18:直訳は「君の憂鬱(coups de blues)は彼女(la solitude、孤独)にとって4時のおやつのようなもの」

*19: là-basはあの世とか地獄とかの方がいいかもしれない。この部分自体がよくわからない

*20:une personne sincèreは「誠実な人」の方が自然ですが気に入らないのでずらしています

*21:「vous は好きじゃないからtuで話す」って言ってたのに急にvousにしてきたな。まあ複数人が相手だからだと思うが、ここまで神とかの概念的なものに向かって話していたところから、現実に舞台の前にいる観客たちに近い視点まで降りてきたようなイメージだと思った。そのすぐ後にまたje te dis だし何この使い分け……。大勢の観客に向けてはvous、観客の中の一人一人に語りかけるのはtuという感じか